2019.06.172019年 ヨーロッパ紀行 第18話 ~泰永書展・セレモニーの夕べ~
2019年6月17日(月)
(In St.Polten Austriay Date 15 May 2019)
サンクトポルテン博物館の外は、ずっと雨が降りしきっています。

まもなく、第三十回泰永書展 in オーストリアのオープニングセレモニーと席上揮毫(せきじょうきごう/席上で筆をふるう意)が始まります。
オーストリアの地で、書の芸術をたくさんの人に知ってもらう為に、野尻泰煌先生がお話をし、実際にいらっしゃった方々の目の前で、毛筆で書を書く所をレクチャーします。

セレモニーの開始時間の午後6時まで、あとわずか…
もうすぐ開始かと思うと、何だかドキドキします。
僕は、別に何かやるという訳ではないのですけど、何とも言えない押しつぶされそうな緊張感です。
野尻先生は、どうかと言うと…

あんまり緊張しているようには、見えませんね。
いつものままです。
僕が「野尻先生は緊張しないんですか」と聞くと…
「そんな事ないよ。緊張してるよ~」とおっしゃるのですが、周りからは本当に悠然としているように見えます。
こういうさりげない所が、只者ではない、野尻先生の凄みです。
降りしきる雨の中、オーストリアじゅうから、次々とたくさんの人がサンクトポルテン博物館に集まってきました。
中には、自分の書いた書を、「マスター野尻」に見てほしくて、作品をたくさん持ってきた人もいました。
野尻先生は、そのお一人お一人を、とても丁寧に対応され続けました。
ヨーロッパの方というのは、書がとても好きみたいです。
書いている文字の意味は分からなくても、その形を表現する事に、喜びを感じていると言いますか…
横澤様が、今回、会場でドイツ語の通訳をしてくださるナナさんを、野尻先生と我々に紹介してくださいました。
そして、いよいよセレモニーの開始時刻の午後6時…
最初にサンクトポルテン市の代表の方や、博物館の館長さんなどのお話があって、その後に、野尻先生がご挨拶をされました。
野尻先生は、すごく落ち着いて、いつもの飄々とした感じで、お話をされました。
そしていよいよ、野尻先生による席上揮毫…

会場の大勢の人たちの目が、野尻先生の筆の一点に集中します。
それに全く動じる事なく、鮮やかに筆をさばかれる野尻先生…

書の面白さを知って頂く為に、会場にいらしゃった方に実際に筆を使って、書を書いてもらったりもしました。

そこにいる全員が「マスター野尻」の魅力と世界観に、グイグイと引き込まれていくようです。

野尻先生は、日本語で話していて、それをナナさんが通訳してくださる訳ですが、不思議な事に、野尻先生が日本語で話しただけで、会場中がワーッと盛り上がるんですね。
それは、野尻先生がここにいらっしゃった人達に、言葉の壁を越えて、何かを伝えようとしているからのように思いました。
時には、擬音でお話をしたり、身振り手振りの大きなリアクションでお話をされたりしていました。
野尻先生の全てを包み込むような笑顔が、目の前の人たちに、瞬く間に伝わっていくのを感じました。
伝えたいという気持ちが本物なら、自然とそれは言葉の壁を越えて伝わっていく…
改めて、野尻先生はすごいなあ… と思いました。

次に、野尻先生が出品している大作の前に、全員が移動して、その作品についての質疑応答をしました。
ものすごく内容の濃いお話をされていましたので、もしよろしかったら、Youtubeの動画をご覧になってみてください。
松里さんが動画をアップしてくださいました…
他にも、このレセプションの動画がアップされていますので、もしよろしかったら、下記の動画もご覧ください。
①第三十回 泰永書展 in オーストリア:開会のご挨拶と席上揮毫
https://www.youtube.com/watch?v=pIk7RwFmFb0
②第三十回 泰永書展 in オーストリア:野尻泰煌 席上揮毫
https://www.youtube.com/watch?v=X3VkIZG0hIQ&t=16s
質疑応答が終わると、みんなでワインを飲みながらの懇親会…
とはいえ、最高のレセプションになるように、みんな気を張り詰めているので、とてもワインを楽しむような心の余裕はありません。
ただし、草さんだけは唯一の例外で、ワインを何杯も飲みまくっていました(笑)
とはいえ、草さんの真骨頂は、酔えば酔うほどに、機転を利かせて良い仕事をされるんですね。

得意な英語を駆使して、言葉で阻まれたオーストリアの方々と我々の間を、上手に和ませながら、つなげてくれました。
オーストリアはドイツ語圏ですが、英語はどこの国でもある程度通じるので、案外、英語だけで会話が出来たりします。
相模泰生先生と僕に、野尻先生が「君達もせっかくだから、ワインを飲んでおいでよ」と勧めるので、泰生先生と一緒に会場のワインを頂く事にしました。
緊張した後の赤ワイン、とっても美味しかったです(^^)

泰生先生と端っこの方で目立たないように、ワインを楽しんでいたら、オーストリア人のご夫婦に話しかけられました。
すごく和やかな感じで、何かおっしゃられるのですが、時々「オーストリー」とか、わかる単語が出てくるものの、言葉がつながりません。
おそらく、ジェスチャーからして、「このワインはオーストリア産のワインですよ。美味しいですか?」みたいな感じの事を聞かれたのだと思い、僕は「イエス、ベリーグッド」みたいに答えました。
泰生先生も、臨機応変に、片言英語でうまく応対していました。
ご夫妻は楽しそうに、僕らのワイングラスに乾杯をして、「チンチン」とおっしゃっていました。
おそらく「我々は、乾杯する時に、チンチンって言うんですよ」みたいな事を、言われたような気がしたので、泰生先生と僕も「チンチン」と言って、ご夫妻のグラスに杯を合わせました。
たくさんの国の人が一つのなって、楽しむレセプション…
つくづく素敵だなあ、と思いました。
一番お疲れになっているのは、野尻先生のはずなのに、一切疲れた顔を見せずに、最後までみんなを気遣ってくださいました。
無事にレセプションも終わり、博物館の外に出ると、まだ雨は降り続いていました。
折りたたみ傘を広げて、野尻先生と一緒に、サンクトポルテン中央駅まで歩き、そこから電車を乗り継いで、ウィーン西駅に帰りました。
今夜は、このままベッドに倒れ込んだなら、すぐに眠りについてしまうと思います。
<旅の教訓18>
言葉の壁があっても、伝えたい気持ちが本物なら、それはおのずと伝わっていく。
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